【他の公的保険との関係】

「労災保険の概要と適用範囲」で述べましたように、労災保険は労働基準法の災害補償を目的とした制度で適用を受けるのは事業所です。

ここでは、労働者災害補償保険と健康保険や国民健康保険等との関係について説明します。

【1】健康保険法 (平成14.08.02改正 法律102号)

健康保険法 第1条(目的)

この法律は、労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

健康保険法 第55条(他の法令による保険給付との調整)

被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、特定療養費、療養費、訪問看護療養費、移送費、傷病手当金若しくは埋葬料の支給は、同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)、国家公務員災害補償法(昭和26年法律第191号。他の法律において準用し、又は例による場合を含む。)又は地方公務員災害補償法(昭和42年法律第121号)若しくは同法に基づく条例の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。

 

健康保険の目的からお判り頂けますように、「労働者の業務外の事由」としており、

業務外の通勤途上災害についても保険給付の調整により、健康保険から保険給付は行われません。

どちらとも判断できない場合、労災保険給付が行われるか労災保険へ給付請求を行うことになり

労災保険での不支給決定を受けた場合、健康保険へ保険給付請求することになります。

※法人の代表者等に対する健康保険の適用について

厚生労働省保険局長発(平成15年7月1日)

労災認定された傷病等に対して労災保険以外から給付等を受けていた場合における保険者等との調整について

被保険者が立て替えることなく労災保険と健康保険(国保含む)の間で調整されるようになりました。(平成29年2月1日基補発02021第1号)

●手続きの流れ

①支給決定を行った労働基準監督署は、被災労働者等の申出等により健康保険から給付を受けていたことを把握した場合には、(健康保険の)保険者の同意が得られれば労災保険から直接保険者に振り込むことにより、保険者への返還手続きが可能であることを説明する。

②被災労働者等が、療養(補償)給付たる療養の費用請求書(様式第7号又は様式第16号の5。以下「請求書」という)。の支払先として保険者の口座を指定することを申し出た場合には、次の手順により被災労働者が保険者に返還する金額等について保険者との調整を行う。

ア.労働基準監督署は保険者に連絡し、保険者との調整において口座振込が可能であることが確認できた場合には、返還予定額の通知書案と根拠になるレセプトを労働基準監督署あてに送付依頼を行う。その際、保険者から被災労働者の療養に係るレセプトを入手することについての同意書を提出してもらう。

イ.労働基準監督署は、保険者から送付されたレセプトのうち私傷病に係る療養の費用の有無を確認し、至急の可否の判断の上、労災保険から支給することが見込まれる金額と支給対象となる期間(療養開始年月日)等を保険者に連絡。

ウ.労働基準監督署と保険者との間で金額を確定した後、労働基準監督署は保険者に対して被災労働者等あてに返還額を通知するよう依頼すること。また、被災労働者等に対しては、当該返還通知書等を受け取ったときは、療養の費用を請求するよう連絡すること。その際、診療費の自己負担分がある場合は、これも併せて請求するよう教示すること。

③療養の費用請求に当たっては、請求書に、次の書類を添付させること。

ア.保険者から送付された返還通知書等(原本)

イ.委任状

④被災労働者等が医療機関に支払った自己負担分がある場合は、上記③の療養の費用請求書とは別に、従来通り、医療機関が発行した領収を証する書面を添付して、別途請求させること。

【2】国民健康保険法

国民健康保険法 第2条(国民健康保険)

国民健康保険は、被保険者の疾病、負傷、出産又は死亡に関して必要な保険給付を行うものとする。

国民健康保険法 第56条(他の法令による医療に関する給付との調整)

療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、訪問看護療養費、特別療養費若しくは移送費の支給は、被保険者の当該疾病又は負傷につき、健康保険法 、船員保険法 、国家公務員共済組合法 (他の法律において準用し、又は例による場合を含む。)、地方公務員等共済組合法 若しくは高齢者の医療の確保に関する法律 の規定によつて、医療に関する給付を受けることができる場合又は介護保険法 の規定によつて、それぞれの給付に相当する給付を受けることができる場合には、行わない。
労働基準法 (昭和22年法律第49号)の規定による療養補償、労働者災害補償保険法 (昭和22年法律第50号)の規定による療養補償給付若しくは療養給付、国家公務員災害補償法 (昭和26年法律第191号。他の法律において準用する場合を含む。)の規定による療養補償、地方公務員災害補償法 (昭和42年法律第121号)若しくは同法 に基づく条例の規定による療養補償その他政令で定める法令による医療に関する給付を受けることができるとき、又はこれらの法令以外の法令により国若しくは地方公共団体の負担において医療に関する給付が行われたときも、同様とする。

 

国民健康保険では、「労働基準法 (昭和22年法律第49号)の規定による療養補償」についても記載されており

他の公的保険制度による保険給及び補償義務者がいる場合は、一切保険給付をしないことになります。

個人事業者で労災保険特別加入制度を利用されている場合も同様となります。

【3】地方公務員災害補償法

地方公務員災害補償法 第1条(目的)

この法律は、地方公務員の公務上の災害(負傷、疾病、障害又は死亡をいう。以下同じ。)又は通勤による災害に対する補償(以下「補償」という。)の迅速かつ公正な実施を確保するため、地方公共団体に代わつて補償を行なう基金の制度を設け、その行なう事業に関して必要な事項を定めるとともに、その他地方公務員の補償に関して必要な事項を定め、もつて地方公務員及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

地方公務員災害補償法 第2条(定義)

この法律で「職員」とは、常時勤務に服することを要する地方公務員(常時勤務に服することを要しない地方公務員のうちその勤務形態が常時勤務に服することを要する地方公務員に準ずる者で政令で定めるものを含む。)をいう。

第2項以降省略

地方公務員災害補償法 第69条(非常勤の地方公務員に係る補償の制度)

地方公共団体は、条例で、職員以外の地方公務員のうち法律(労働基準法を除く。)による公務上の災害又は通勤による災害に対する補償の制度が定められていないものに対する補償の制度を定めなければならない。

第2項 前項の条例で定める補償の制度は、この法律及び労働者災害補償保険法で定める補償の制度と均衡を失したものであつてはならない。

 

地方公務員の職員は、「地方公務員共済組合」制度の適用を受けますが、地方自治体の行う事業で使用される方は必ずしも全員が常勤職員ではありません。

この為、地方公務員共済組合の適用を受けない臨時職員等については公務上災害や通勤災害での補償をどうするかという問題があります。

市町村直営事業について(昭和29年9月12日 労基発39号)

市町村直営事業についても民営事業と同様に労災保険の適用がある。

但し、公署即ち事業部門を除く一般行政事務を取り扱う事務所(市役所、町村役場等)そのものについては適用がない。

 

この通達以後、「地方公務員災害補償法」(昭和42.12.01 第112号)が施行され、

現業部門の常勤職員については、上の規定通り「地方公務員共済組合」制度が適用され

「地方公務員共済組合」制度の適用を受けない職員については、地方公務員災害補償法第69条の適用を受けることになります。

この条文は、非常勤の地方公務員に係る補償制度を各地方自治体が「地方公務員共済組合」制度に準じた制度として条令等で定めることを義務づけています。

この定めがない場合については、労働者災害補償保険法の適用となります。